遺伝研究者の顔 高橋 俊樹
大学生のとき、卒業研究で遺伝情報の解析を行いました。国際的な機関が運営するゲノムデータベースからヒトゲノムをダウンロードできるようになったと聞いたので、およそ2万種類あるヒトタンパク質のデータを用い、Rubyというプログラミング言語で新たな知識を見つける研究です。ダウンロードしたヒトゲノムデータは今でも保存して持っています。
タンパク質のデータとはいえ文字列です。タンパク質は20種類のアミノ酸からなります。その20種類のアミノ酸それぞれにアルファベットが割り当てられています。このルールにより、どのタンパク質データも20種類のアルファベットで表されていることや、どのタンパク質も必ずM(メチオニン)から始まることなど、いろいろと特徴のある文字列です。
たとえば、毛の主成分である「ケラチン」を生成する「KRT18」というタンパク質はこんな様子です。
MSFTTRSTFSTNYRSLGSVQAPSYGARPVSSAASVYAGAGGSGSRISVSRSTSFRGGMGSGGLATGIAGG
LAGMGGIQNEKETMQSLNDRLASYLDRVRSLETENRRLESKIREHLEKKGPQVRDWSHYFKIIEDLRAQI
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全部で430文字です。つまり430個のアミノ酸がつながってできています。この中の数文字、つまり数個のアミノ酸が異なってしまうと、髪の毛に関する「変異タンパク質」となることが知られています。若白髪になる文字群もあるし、禿頭かどうかを決める文字も幾つかあります。
私は卒業研究で、栄養素とヒトタンパク質の相関についてプログラムで調べました。身体では作られないアミノ酸「必須アミノ酸」をバランスよく食べなければならない理由を探したのです。
その結果、爪や髪や粘膜など、数日で入れ替わってしまうタンパク質は必須アミノ酸の割合が少ないのですが、遺伝子の複製や細胞分裂など、生命維持に必須のタンパク質は必須アミノ酸をバランスよく含むことが分かりました。
歳を重ねても、肌がぼろぼろになりにくく髪につやが保たれている人たちは、必須アミノ酸をバランスよく食べ、細胞の機能に内側からたっぷり栄養を補給しているということが裏付けられました。
10年以上前に行った研究なので、今はもっと知見が進んでいると思います。
今や、検索する情報の半分くらいは生命科学に関連するのではと思います。健康、医療、美容、抗加齢、食の安全性、そしてコロナもそうです。生命科学を学ぶと、自分や身の回りのニュースがつながって理解できるので、若くありたい人やいつも食事や栄養のことで困る人、服用中の薬やサプリ、持病について知りたい人は、テレビや新聞やネットの広告に振り回されずに済みます。
在宅時間に余裕がある方は、図書館や書店で生命科学の本にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。分厚く大きな教科書から、ハンディなものまで良書が出版されています。多くの刺激と面白さを保証します。